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「ちこく姫〜和歌山県紀の川弁バージョン〜」
by 打田図書館



01
キーン コ〜ン カーン コ〜ン
わんぱく小学校のチャイムが 遠くで 聞こえてらあ。
「ハァ…ハァ…忘れもん とんに帰ってたら、遅なってもた」

02
「あっ、まどかちゃんやん!おはよう」
「なんやってんの、みんな!今日は、絶対ちこくしたらあかんのやでぇ」
「えっ、なんでよ?」
おんなじ1年2組の番長らは、ぽかんとしちゃあっと。
「…思いだしたわ、大変や!!」

03
まどからは 早よ早よ(はよはよ) 教室にかけこんだんよ。
「おそいやんか! なんでこんな日ぃに おくれてまうんなよ」
今日は 学習発表会の劇の 役を決める日ぃやったんじょ。
すでに 1年生がみな 集まってと。
「ちこくするらて、やる気ぃない しょうこやな!」
1組の女番長ちよこが でっかい声で ゆうたんじょ。
「バツとして、ちこくした2組は 全員 わき役やで!」
「そんなぁ!?わざと おくれたんとちゃうんやで」

04
「2度と ちこくせぇへんさかえ 許してよぉ」
「ちょっと ちこくしただけやんか! なんで わえが 主役とちゃうんよ!」
まどからは ひっしで ちよこに 文句ゆうてら。
「うち お姫さまをやるんが むかしっから ゆめやったんやでぇ」
「なに ゆーてんのなよ。あんたらが わるいんやんか」
「なんやて ちよこ!!」
「そやから 2組は あかんのやんか。 1組は無遅刻無欠席。いっつもナンバーワンやで!」

05
あくる日ぃから、発表会の練習が はじまってん。
「ああ、王子様。 うちをつかまえて〜」
1組は えんぎに ねつがはいらして。
ほやけど、わき役の2組は ぜんぜん やる気が出やなよぉ。
「見てん、この衣装…」
「うちも あんな ドレス 着たかったわ…」
それを聞いて、まどかが ゆうと。
「わき役やからって 落ち込まんといてよ。
 うちが みんなを 主役に すらよぉ!」

06
それからよぉ、なんか まどかのようすが 変やっしょ。
毎日 ちこく ぎりぎりなんよ。
「まどかちゃん、大丈夫かえ?」
「うちを信じてよぉ! もう絶対に 遅刻らせぇへんさかえ!」
まどかの声が 廊下中に ひびきわたっと。
「ちこくらで 2組が2番手らて2度と いわせへんから」

07
そして、ついに 発表会の前の日ぃにってもたんじょ。
「早よかえって 遊びにいこら〜」
「ちょっと待ってよ。あんなぁ みんなに てとてもらいたいんやけど…」
放課後、まどかは 番長らを 呼び止めて ゆうてと。
「もちろんてとちゃるで!! なあ、番長さん」
「ほう、おもしろそうやんか、まどか」
「うふふ。ほな、うちまで ついてきてぇ」

08
「さあ、ここが うちの部屋やで」
まどかは 勢いよく ドアを あけとよぉ。
「こえなんよぉ!? めっちゃきれいやん!」
部屋には きれいな舞台衣装が 並んじゃあったんよ。
「すご〜! ぜんぶ まどかちゃんが 作ったんかえ?」
「ほやけど、まだよーさん つくらんと あかんのよ」
「よっしゃ! みんなで すごいやつ つくって 主役を取り返そら!」
「うちら2組で 発表会を めっちゃええ舞台にしちゃろら!」

09
チクチクチク、シュー! シャシャッ!
チクチクチクチク、ぶすっ!
「うおお、いった! 指刺してもた!!」
「おがらんといてよ。 おかんに 怒らえるやんか」
まどかは もくもくと 衣装を縫いつづけちゃあら。
「ねえ、あと 何着 いるん?」
「クラス全員分やから、あと12着やで!」
「え〜 こんなに ちまちま縫うてたら、絶対明日までにまにあわんでぇ

10
わおーん
夜も だいぶ ふけてきました。
「ね…ねむたいわ…」
「わえらが 寝てもたら、まどかちゃん ひとりで…」
「残り10人分もか…女子にはきついやろ」
「でも…もう…ぐ〜」
番長らは 床に のめりこむように たおれてもとよぉ。
「みんなあ! しっかりしせぇよ!」
「お、おう…ぐう〜〜〜〜〜〜」

11
発表会の朝が やってきてもてよぉ。
ジリリ…! ジリリリ…! ジリリリリリ!
「うわ、あかん、寝坊してもた!」
そとは すっかり あかるなってもてら。
「みんな起きて。このままやったら またちこくやで!」
まどかは 泣きくずれてもた。
「ふっふっふ。 そんなことやと 思ったで、まどか」
「はっ! その声は!?」

12
「ちよこちゃん!」
「さあ、その衣装もって、これに乗りぃ!」
「お、おおきに。でも、なんで ちよこちゃんが ここにおるん?」
ちよこは答えやんかっと。
「チャイムまで あと10分やで。ぐずぐずしてたら まにあえへんで!」

13
「ちよこちゃん、なんでそんなえして…」
のぼり坂を 息を切らして ちよこは 走っちゃある。
「ちよこまで ちこくしたら、1組が ナンバーワンとちゃうようになるんやで」
「ちょっとくらいのちこくやったら、みんな 許してくれるて」
「そうやで。こんな すごい衣装 作ったんやもん、大丈夫や」
「うるさい! 2組のお姫さんは、とんだ ちこく姫やで…」

14
「ええか。 最初に あんたらが ちこくしてきた日ぃ、みんなぁ あんたらがくんのを ずっと待ってたんや。 どんなきもちで まってたか、 考えたことあんの?ええ舞台をつくろと 努力するんは 立派やで。ほやけど、おくれたら 舞台の幕は あがれへんのやで。最高の舞台にするってゆうたんも、その衣装も、ぜんぶ みずのあわやんか。また ちこくして、あんたの言葉信じた みんなの気持ちを裏切る気かえ!?」

15
そのころ、学校では…
キーン…
「おそいなあ、まどから」
コ〜ン…
「まどかは絶対来るて!約束したやん!」
「ソウヤデ ミンナ。オチツクンヤ」
カーン…
「でも、もう チャイム 鳴り終わってまうで」
「そういや、ちよこちゃんまで おらんで」
コ〜…
「このままやったら、劇 できやんやん!!」
みんなが あきらめかけた そのときやっしょ。

16
「お待たせー! みんな!!」
「きたで! 絶対にちこくせんって 信じてた」
「ごめんよぉ〜。うち あの日ぃ ちこくしたんが わるかったんよ」
「わえらよぉ、みんなぁ待ってくれてるて おもてなかったんよ…」
それ聞いて、みんな どえらいよろこんじゃあっと。
「さあ、シンデレラのおもどりや!」
「みんな! おおきに。あいしてるでえ!」

17
ついに舞台の幕が あがらよぉ。
「行こらよ、みんな!」
緊張する みんなに 番長が、おおきく 声をかけちゃあっと。
「ふるえてるんとちゃうん? ちこく姫さん」
「ゆーたな、ちよこちゃん。 ほな、いっしょに はじめよら。めっちゃええ舞台を」
おおきな歓声のなか、 1年生 全員、笑顔で登場しちゃあっと。



給食番長シリーズ D
『 ちこく姫 』好学社 (2014/07)
作:絵 よしながこうたく



ちなみにオリジナルわんぱくシリーズの博多弁と言い張ってる方言は ↓↓

ここです。福岡市は香椎の『香椎弁』