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「ぼくの兄ちゃん〜博多弁バージョン〜」
by 吉永拓哉

01
「こうた……先に いきやい」
「に、兄ちゃん おさんのってよ……」

02
ぎゃおー

「うわあ! でたばいーー!」

「まってって、兄ちゃん!!」

03
「おいてくげな ひどかもん……」
「お前の弱虫ば なおしちゃあと おもうたったい」
ぼくの名前は こうた。兄ちゃんの弟だ。

「グズグズなきやんな! オレんごと 強か男い なれんばい」
兄ちゃんの名前は たくや。ぼくの兄ちゃんやん。

04
その夜んこと……。
「おい、おきやい! おきやいって」
「う〜ん。どげんしたと、兄ちゃん」
「あのてんじょうん もようくさ……、おばけやしきで みんやったや?」
ぼくは しっとう。
兄ちゃんが ほんとうは こわがりやってことば。
「ただの もようやろうもん」
「いいけん 電気ば つけやい!」

05
「よかや、オレが ねむるまで、こうたは みはっとれ」
「なし ぼくが……」
「弟っちゃけん あたりまえやろうもん」
すきで 弟に なったっちゃないもん。
「オレが ねよったら、電気ば けしときやいよ」
そげんいうて、兄ちゃんは ぐうぐうと ねむうてしまいよった。

06
そげんことが なんにちも つづきよった。
「こうた、ばたばた くわんと 学校さい ちこくすうよ!」
「ばってん、ねむかっちゃもん」
兄ちゃんのせいで、ぼくが お母さんに がられとる。

「はよう ねん子は、おばけに つれてかるうとよ!」
「兄ちゃんが おばけに つれてかれれば よかっちゃん」
「なんてや!」
きょうも 朝から 大ピンチ……。
だれも ぼくの みかたげな してくれん。
まさに しめんそか。

07
学校が しもうて うちん かえりよると、
「朝は はらかいて わるかったね」
そげんいうて、兄ちゃんは ぼくに クレヨンば わたしよった。
「てんじょうの もようば、かわゆう かきなおしてくれよん」
「……ふん。わがで かけばよかっちゃない」
「こうたんほうが 絵が うまかけん かいてほしかったい!」
なして 兄ちゃんは、こげん ワガママいっちゃろう。

ばってんが ほめらるうと、
ぼくは ついつい かきよる。
くそう、兄ちゃんめが。

08
これで ひとあんしんばい。さあ ねろ。
「こうた こうたっ! おきてんやい」
「……またね? ちゃんと うもう かいたろうもん」
「お前の絵が うますぎとうせいで、
おばけが とびだして みえるっちゃが!」
「いいかげんにしてって……」
「いいけん みてみやいっ」

もう たえられん。
「おばけさん、こげん兄ちゃんげな
つのうていってください!」

09
「はーい、つーのうてーくばいー」

「うわあ、まじで でよった!」

10
「お母さあーーーん!!」
兄ちゃんが まっ先に おらびよった。
「こうたが あげん絵げな かくけんやろうが」
「兄ちゃんの せいやろ」
おばけに がしっと つかまえられよった。
兄ちゃんとおると わるかこと ばっかりばい。

「ねらん子 ふたり、ぐっひっひ。
おばけん世界ヘ ごしょーたいたいー」

11
おばけは ヒョンヒョン とんでいきよった。
「お前たちば おばけの 仲間に しちゃろう」
「ぼくは いやばい! 兄ちゃんだけにしとってよ」
「こうた、自分だけ たすかろうげな、コスかぜ!」

ばってん、おばけは しらんぷり。
「きっと 気に入る、よかよか」

12
ヒュー、ドロ、ドン! ドロ! ドン! ドン!

「あれーっ! これが おばけんおやしきな!?」
兄ちゃんが うれしそうに おらんだ。
「ようこそ、おばけん楽園 おばけん世界へ」

13
「さあ、すきな おばけになってんやい」
おばけたちが うとうて おどりよる。
「すごか、とべるばい。こうたも いっしょに とばんや!」
「よか ぼくは。えずいもん」
「みてんて! 目から ビームが でよるぜ!!」
「いたか、いたかって、兄ちゃん!」
だれか 兄ちゃんば とめちゃって……。

14
「おばけが こげん 楽しかげな おもわんやったばい!」
「ぐっひっひ。じゃあ、もっと 楽しかところさい いくばい」
兄ちゃんが くらかほうさい いってしまいよう。

「こうたー、おいてくばいー」
どんどんどんどん するするするする。
「に、兄ちゃん そっちさい いったら いかんって!」

15
「うわーん。また ぼくば おいてくっちゃねー!?」
兄ちゃんは、なして いっつも ぼくんいうことば
きいちゃらんとかいな。
「いいけん お前も こっちさいきいて〜」
「兄ちゃんが こっちさい もどってきいよ」
なみだが じょんじょんじょんじょん でてきよった。

「弱虫げな いらん……」「弱虫げな つまらん……」
気のつくと、ぼくは おばけに かこまれとった。
「た、たすけて、兄ちゃーん!」

16
そん時や。
「こうたば いじめやんな!!」
兄ちゃんの声が ひびきよった。
「兄ちゃん!! どげんして……」
「あたりまえやろ。オレは お前の兄ちゃんっつぇ」
兄ちゃんが、もどってきてくれよった。

「おばけ、やっぱあ 弟と 家ん かえらしてんやい」
「わかった。かえす、かえすけん……」
すごかあ、兄ちゃん。

17
兄ちゃんは おばけば こわがらんごとなった。
やっと ぐっすり ねむれよる、そげん おもったとい……。
あれいらい 夜んなりよると おばけが 遊びにくるごと なったとよ。
「やっほ〜、たくや。また じまんのビームば みせてんやい」
「おっしゃ! こうたも ねとらんで おきんや!!」

神様、ぼくは いったい いつまで 兄ちゃんの弟なんやろうか……。






ちなみに博多弁と言い張ってる方言は ↓↓

ここです。福岡市は香椎の『香椎弁』